「……クレイドって、お父さん似? お母さん似?」
唐突なメイナの質問に、暗闇に目を凝らして血の染みを落としていたクレイドは顔を上げた。
「どうした、急に」
うっ、と隣でメイナが言葉を詰まらせる気配を感じ、クレイドはしまった、と思う。一つ上の友人、トキア・スルヴィンの苦笑が思い出された。どうも彼は、無自覚にとてもつれない態度を取ってしまいがちらしい。単純に何故問われたのか不思議に思っただけなのだが、相手からすればまるで聞かれたくない事のように見えるだろう。
どうしたものか、と一瞬逡巡し、メイナが答えを返さない事に気付いて口を開いた。
「母親似……だと思う。顔立ちはな。父親の顔ははっきりとは覚えていないが……」
「あ……そっか。クレイドのお父さんって……」
クレイドの父親であるグランデルト・バルホークは十年前、クレイドが七歳の頃に既に亡くなっている。その死因は彼の生前の功績と相まって、この国においてとても有名なものであった。
彼は、傀儡に殺されたのだ。
そして彼は、傀儡開発の第一人者であった。
彼を殺した傀儡は、彼の最期の作品であり、国王から主鍵を奪った反乱の首謀者でもある。
傀儡開発で、辺境の領地を与えられた貧乏貴族だったバルホークの名を一気に国中に知らしめ、大出世した彼の悲劇的とも皮肉とも言える最期。それは同情と、恐らく等分だけの嘲りをもって国中に広まった。傀儡などという異色の研究と、それによる大出世は尊敬、評価と同時に、羨望と嫉妬、嫌悪の的でもあったのだ。
「ごめんなさい、何か……」
まずい事聞いちゃって、と、口の形だけが残りの言葉を紡ぐ。それを月明かりを頼りに読み取って、クレイドはいや、と首を振った。自分の事は全く憶えていないメイナだが、一般常識や知識は普通の人間と同程度に持っている。クレイドの父親に関する事もそれなりに知っていたのだろう。
「構わん。……ただ、母が言うには俺の髪と目の色は父親譲りだそうだ」
少しのことですぐに怯え、不安そうに丸い目を揺らす少女を安心させるように、クレイドは少し笑いかけた。あまり器用な方ではないのでこれ以上の事はできないのだが、それが通じたのかメイナが安堵の表情を浮かべる。
「じゃあ、お父さんも空色の目だったんだ……」
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