メイナが悪夢で目を覚ますその頃、クレイドとトキアは部屋で、それぞれの荷物の整理や魔導法具の手入れをしていた。
部屋は広々としていて明るく、窓も装飾的で美しいカーテンに彩られて大きい。しかしそんなことに頓着した風もなさそうに、二人はそれぞれ自分の作業に没頭している。
「特にここで、買いに出とかなきゃなんねえ物はないな。食糧は宿で売ってくれるってさ」
アルガレイスの付き人という立場からか、本人の面倒見の良い性格からか、トキアはクレイドらのパーティの所持品、会計を管理している。アルガレイスやクレイドと兄弟のように育ち、一つ年上でもある彼は二人の信頼も厚い。
「そうか。じゃあ明日の朝に出発できるな。このままシュルホトまで何もまっすぐ行ければいいが……」
ベッドに腰掛け、剣の手入れをしていたクレイドは顔を上げて答えた。
「ま、よほど大事がない限り大丈夫だろ。ああ、クレイドの服はどうする? 洗って繕うか、新しく買うかしないとな」
昼の戦闘で破け、血で汚れてしまった服の事である。
「洗うだけ洗ってこよう。繕いに出すのはシュルホトに着いてからでもいいだろうからな。最悪、着られないわけではない」
宵の口とは言えないが、まだ酒場の灯りは皓々とついている時間帯である。今から洗って干しておけば、明日の朝には乾いているだろう。そう考えたクレイドは手入れし終わった剣を鞘に納めて腰に差すと、服を受け取りにトキアのベッドに歩み寄った。
「今からか? 水場は外だっただろ、暗くねえ?」
呆れたように言いながら服を渡すトキアに、クレイドは一つ肩を竦める。
「さっきお前に言われるまで忘れていた。月夜だし大丈夫だろう。あまり放っておくと血が取れなくなるしな」
窓の外を見遣って言うクレイドにトキアが笑った。
「大貴族だってのに貧乏性だな。捨てて買い換えちまっても問題ないだろうに」
それに僅かな笑みを返してクレイドは踵を返す。部屋からの出際、灯りを持つ手を軽く揚げてこう返した。
「大貴族なんて大層なものになったのはごく最近だからな。俺の小さい頃はまだ、母親が毎晩繕い物をしてるような貧乏貴族だったさ」
-----------------------
毎度毎度日付細工してると、むしろ日付の細工なんざ必要ないのではないかと思い始めます(苦笑)
ってなわけで、十二時回って書き始めました。さすがに一行にはならずにすんだよ。一場面。
次は水場でメイナとクレイドです~。
めざせ、おロマンス。
PR