イエナ国士官学校の日常
俺が首都、ケムニッツに来たのは十三の時だった。
それまで棲んでいたのはシェトラールという悪名高い南部の色街の、さらに最底辺であり、孤児として屋根を貸して貰っている男の下で金を稼ぐ毎日を送っていた。
……な、ものだから無論学校になど行っていないし、難しい本など読めるはずも無い。一応文字は知っており自分の名前くらいは書けたが、日常の単語とそのつづりが頭の中で一致していようはずもなかった。
こんな状態の俺が十四になる年から士官学校に入って勉強に普通について行けると思うか? んなワケないだろう。もし意地でもついて行きたければ、寸暇を惜しんで単語を頭に詰め込むしかなかったんだよ。ああ、勿論そうしたとも。折角それなりに居心地の良いねぐらからおさらばして、どー考えたって鼻つまみ者扱いされる首都になんぞのこのこ出てきたんだ。ここで落ちこぼれなんぞしたら、折角の労力が無駄になるじゃないか。
そんなわけで俺は、授業と必要最低限の日常生活以外は全て勉強と鍛錬にまわした。
貧乏暮らしで劣悪環境への耐性はついていても、身体の発育は全く周りの連中についていってなかったし、前述の通り勉強も巨大なハンデを背負っていたからだ。毎日毎日が睡眠と勉強と鍛錬とその他生活維持作業のみの繰り返しで、気付けば俺の成績は学科実技共にトップに躍り出ていた。
そしてついでにと言うか、逆にと言うか、人間関係のほうはてんで形成されず、周囲からは浮きまくってしまったのだった。幸か不幸か無駄に目立つ容姿と成績、薄暗いバックグラウンド等々も相まって、俺は格好の噂の餌食になっていたらしい。いや、そんな事に気付く余裕なんて最初の一年はありもしやしなかったんだけど。
そらまあ、文武両道に秀でた天才で見た目は華奢な美少年、その態度は冷たく取り付く島も無い、出身その他全く不明だが教官たちにはあまりいい顔をされない……となれば誰だって気になるだろうさ。別にそれを責めやしない。
だがなあ、だからって俺を、超絶お育ちの良い英才教育を受けた、完璧な環境で何一つ不自由なく育った天才と思い込むのはやめてくれ。
ついでにソレを鼻持ちならないとか思って、「その取り澄ました高慢なツラを屈辱に染めてやる」なんて超勘違いな事考えるのは勘弁しろ。俺はお前らの想像する世界の更に外側を生きてきた最下層の人間だぞ、おい。そんなに薄暗い世界に興味があるなら俺が連れてってやろうかコノヤロウ。
……おっと、つい地が出てしまった。
『俺』じゃなくて『僕』だった。いかにもお育ち悪そーな、ガラ悪い言葉遣いはやめたんでした。気をつけないとねえ。
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