夢の中。手を真っ赤に染めてメイナは泣いていた。
――私は誰? 私は何? 何故こんな夢を見るの?
幾度となく繰り返した問いを、再びメイナは呟く。
目の前に在るのは、彼女にとって誰よりも大切だったはずの人の亡骸。
――哀しい、私の絶対者。
彼の血に染まる両腕で、メイナは胸を押さえる。
じりじりと灼けるように熱く、きりきりと杭を刺し込むように痛い。
――この痛みが、私の生きる証。
――私の、運命。
その辛さに、ぎりりと歯を食いしばる。血塗れた手に力を込めると、長い爪が胸に食い込んだ。
戦い続けるしかない。全てを終わらせるまで、幾多の血を浴びても。
同胞を救うために。自分が赦される日など永久に来ずとも、せめて、仲間達に安らかなる明日を。
狂おしいほどの哀しみと喪失感の中、そう、メイナは心に誓った。
悪夢を見たとき特有の、重苦しさとも気だるさとも言える不快感と共に、メイナは目を開いた。のろのろと身体を起こして辺りを見回す。すっかり日は暮れ、灯り一つつけていない室内は闇に沈んでいた。
喉が渇いてひりひりする。頭は重く、すっきりしない。果たして今が、何時くらいなのかも分からずメイナは途方に暮れた。アルガレイスではあるまいし、時計など持ち合わせてはいない。
手探りで何とか灯りをつけ、何か飲みたいと辺りを見回す。しかし、残念ながら三等客室に水差しはなかった。
「食堂……行ったら何かもらえるかなあ……」
あるいはいっそ、外の水汲み場まで行くか。どちらにしろ歩き回れば、今が宵か夜中かくらいは分かるだろう。貴族が泊まるような上等な宿なので、そう危ない客もいまい。
鍵の力で発光するランプと、一応護身用に杖を持って、メイナは部屋を出て歩き出した。
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